ポールUTの新バージョンが出来ました。
新バージョンはポールUTの現場での運用性の向上を得る為に企画されました。
企画としての要求項目は、
・ドライ探傷の実用化
・電源の簡易化
・軽量化
・量産性
と云った所です。
ドライ探傷
ドライ探傷は先に実験にてある程度の効果を得ていましたので、其れを実用機に組み込んで現場運用を可能にさせる事です。
実用でも概ね実験と同様な測定能力となりました。残る課題は現場の被探傷物の表面の汚れですね。当然の事ながら現場の被探傷物は探傷表面に砂埃等が付着していますので、其れ等が障害となります。
ドライ探傷では砂埃程度ならそのまま探傷が行えましたが、さすがに砂つぶみたいになって来ると接触媒質を使っていても無理ですので、表面の汚れを洗い落とす為のホースは復活させてます。
電源
電源の簡易化は、元々ポールUTの探傷面密着には電磁石を使っていて、その電源を現場で持ち歩く手間が大きかったので、電源の軽量化設計を考えていました。けれど電磁石を使っている限りは大なり小なりの電源が必要になってしまいますので、永久磁石への換装が期待されました。しかし永久磁石では、何らかの衝撃で永久磁石が破損して割れてしまったりした場合、破片が被探傷物に引っ付いてしまったままになるリスクがありましたので、なかなか安易に使用する事が出来ませんでした。
そこで今回の新バージョンは構造的に磁石が外側に露出しない設計とし、且つ何らかの大きな衝撃でポールUT本体が破壊されても磁石が本体内に残る様にしました。
軽量化と量産性
先の磁石への対策も含める事になりますが、主要部分を樹脂で成形する事としました。
従来は全金属製で機構も少し凝った構造になっていましたが、実際の現場使用ではそこまで凝らなくても実用可能である事が見えて来ましたので、樹脂を使ったキャスティングでの一体成形で製造可能な形状としました。
一体成形はつまり、シリコンと金属で作られた雌型にウレタン系樹脂を注型して製造する方法ですが、なんのこっちゃない、プラモデルで自作パーツを作っていた時の応用です。プラモデルの方は接着剤で部品を繋げられますが、検査機器は強度が必要ですので樹脂の中に金属部品を埋め込んで、そこで荷重を持たせる様にしています。雌型の一部に金属を使うのはそう云った意味を含めて構造上の精度を確保する目的を持っています。プラモデルでの雌型は割りと簡単に作れましたが、ポールUTの場合は精度を確保するための型の分割方法とかに気を遣わなければならなかったので、少々大変でした。
量産性としては矢張り樹脂の一体成形で金属加工の手間が圧倒的に少なくなりましたので、以前に比べて数分の一の時間で製作が可能になりました。
実践使用
実際に現場で使用してみましたが、期待通りの使用感でした。
主にポール先端での構造重量が減った事と電磁石に使っていた電源ケーブルが省略できる様になりましたので、それらの軽量化によって特にポールを思いっきり長く伸ばした時の安定性が向上しました。
写真で、だいたい9mくらいの高さです。
現行のロッドが最大で約11mなので、概ね12mが今のところの限界でしょうか。
でもただ、長ければ良いと云うものではないです。長さと同時に操作性が要求されます。
つまり超音波探傷では、探触子を被探傷物に当ててからが勝負なので、例えば探傷面が腐食などでフラットでない面ではまともに超音波が通りませんので、操作する人が超音波を綺麗に通す為の「探り操作」を行わなければなりません。
この「探り操作」が効くかどうかがポールUTの場合の評価基準になると思います。
なので毎回、探り易い構造を模索していますが、今回も現場運用では10mの高さでも先端の探触子の当り具合を感じる事が出来ました。
と云うか、もう10m先では裸眼で探触子の当り具合を見る事が難しいので、手の感覚が頼りになって来ます。
Bye! by Kisaki.